第4分科会 組織の中で機能する学校事務

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第4分科会(学校運営)
組織の中で機能する学校事務

~RGで変わる!新PDCAサイクル~

提案者:栃教協教研推進委員会事務職員部
佐野市立閑馬小学校 主事 西林 淳

1 はじめに

 今、教育現場には、東日本大震災をきっかけとした危機管理体制の見直しや、新学習指導要領全面実施への対応など課題が山積している。
 また、栃木県教育委員会では、効率的な事務処理体制の構築に向けて「『公立小中学校事務処理』に関する検討委員会」の中で、栃木県における共同実施推進に向けた検討が進められている。
 教研推進委員会事務職員部は、かねてより教育の原点である「子供たちのために」という視点で、共同実施を単に事務処理の効率化を目指した組織ではなく、教育支援組織、学校事務職員を育成する組織と考え研究を進めてきた。
昨年度は、経験の浅い事務職員が教育活動を意識し、自ら進んで関わることで、どのように学校づくりの一翼を担えるかを検証し研究を進めた。
 そこで、今年度は個人から組織へ視野を広げ、事務職員が教職員と協働した事例をとおして、組織力を高めるための学校事務について提案する。

2 現状と研究経緯

 栃木県では現在、国の配置基準とは異なり事務職員の「全校配置」が施策として打ち出されている。これにより、県内すべての小中学校に577名の事務職員が配置されている。
(栃木県の配置基準)

 職名については、主事・主任・係長級事務長・課長補佐級事務長となっており、年齢構成については、下記のとおりである。平均年齢44.10歳であり、約6割が事務長の構成になっている。今後数年に渡り事務長の大量退職が予想されることから事務職員だけではなく、管理職や他の教職員からも不安の声が聞こえている。

 当初、事務職員は「全校配置」ではなかったが、平成6年度に第4次公立学校教職員定数改善が完了し、全校配置が実現した。そのため、平成7年度から事務職員の採用数が減少し、平成11年度から平成19年度の9年間は、採用人数の平均が2.8人であった。その後、定年退職者の増加に伴い採用人数が増加し、平成20年度から平成24年度は採用人数の平均が15.0人となっている。そのため新規採用事務職員に対し、新採研修の他、経験豊富な事務職員や近隣校の事務職員からの支援の在り方が課題となっている。
こ れらの課題を解決するため、平成22年10月、栃木県教育委員会により「『公立小中学校事務処理』に関する検討委員会」が設置された。現在も、栃木県における共同実施推進に向けた検討が進められている。また、新規採用事務職員への支援として、平成23年度末から採用前研修が実施された。現在、その効果について検証がなされている。
教研推進委員会事務職員部(以下教研)では、かねてより教育の原点である「子供たちのために」の視点で研究を進めてきた。「なぜ事務職員は学校に配置されているのか」「学校現場において教員や保護者の負担軽減のために何ができるのか」というように、事務職員も、「共に教育を創る」という意識を持ち、子供たちの学びを保障するために積極的に学校運営に参画していくことが大切であると考えた。
 そこで、事務職員に求められているものは、子供たちがきめ細かな教育が受けられるよう、教育環境を整え安定した学校事務を提供することである。
 そのためには、経験の浅い事務職員の力量を高めるなど「事務職員の人材育成」が重要であると考え、支援する立場の事務長の制度について研究してきた。昨年度は、研究の視点を実際に支援を受けて成長してきた若手事務職員に移し、支援を受ける側から研究を進めた。
 学校組織の中で、若手事務職員がどのように教育活動や学校運営に関わっているのか、各自の取組を基に研究を進めた結果、経験年数に応じた知識や能力を発揮し、参画していることが分かった。

 昨年度の提案をとおして、学校が組織としてより一層機能していくためには、事務職員が組織の一員として成長していくことが必要であり、そのためには、個人の努力だけでなく、管理職や他の教職員の理解と協力が不可欠であると考えた。学校職員の一人として、校内研修や学校行事への参加など教育活動への積極的な関わりが大切である。このことによって、事務職員に周囲の状況を見渡す力が備わるようになり、学校運営に幅を持たせることができると考えた。
そこで、事務職員が教職員と協働して学校の課題に取り組んだ事例をとおし、組織力を高めるための学校事務について提案する。

3 事例

(1)事例1 情報管理と学校事務

①課題
 小規模校のこの学校では1人あたりの校務分掌が多いこともあり、サ一バのフォルダ管理や情報管理が十分にできていなかった。毎年教職員の異動があるにも関わらず、様々なデータがどこにあるのかを見つけにくく、その都度担当者に聞いたり、前年度の資料を探したりする必要があり不便に感じていた。また、結局データが見つからずに再度作り直すこともあった。
 これでは仕事の効率が悪く、円滑な引継ぎもできない。そこで、この状況を改善しようと、事務職員が管理職や情報主任と連携して情報管理の見直しを図った。

②解決策
 1段階 過去に情報主任を中心に文書分類別のフォルダ管理を導入しょうとしたが、細かすぎて定着しなかった経緯があるため、事務職員が個人別フオルダを作成した。そしてサーバへのデータ保存を徹底し、教職員間で情報を共有することを目標とした。期限内に全員がデータを保存するよう、情報主任が職員会議で呼びかけ、共通理解を図った。異動により転出する教職員は次年度への引継ぎのために保存したが、その他の教職員には個人差があった。
 2段階 翌年は異動により教職員の約半数が入れ替わった。昨年度の教職員と校務分掌が簡単に結びつかず、教職員から個人別のフオルグでは使いにくいという声が聞こえてきた。そのため、校務分掌を簡略化した分類案を事務職員が作成し、管理職や情報主任と相談・連携して新しいフォルダ管理を提案した。職員会議で、情報主任が周知し教職員の理解を得ることで、サーパ活用の定着や情報の共有化ができた。情報主任と事務職員が連携し、新しいフオルダに過去のデータを移行した。
 3段階 校務分掌別の分類フォルダは活用され始めたが、教職員が便宜上作ったフォルダが増えていたり、共用パソコンのデスクトップにデータが大量に保存されていたりすることがあった。校内のルールやデータ管理についての認識にばらっきが見られたため、フォルダ管理の再周知をした。また、教職員の意見や他校の情報を参考にして、分類の見直しを行った。保存場所や共有フォルダの利便性を周知し、データのバックアップ強化なども進めた。

③その後
 教職員が入れ替わっても円滑にデータの引継ぎが行われるょう、年度当初、全職員にルールの周知をすることにした。今年度は、夏季休業中にサーバ内の点検整理を行う予定である。
 また、個人情報の管理が不十分だったので、事務職員が管理職、情報主任と連携して個人情報管理マニュアルを改定し、現職教育でセキュリティ設定を行った。その結果、教職員全体の個人情報の管理に対する意識を高めることができた。

(2)事例2 教材費会計と学校事務
① 課 題
 大規模校のこの学校では、教材費の会計事務が校内で統一されておらず、様式、業者への支払時期、転出入時の精算、決算方法等が学年で違っていた。そのため、担当学年が替わると円滑に作業を進められず非効率的という声が、会計担当者からあがった。また、年間購入予定教材や集金額を検討する補助教材選定会議も行われてはいたが、例年同様に集金額を決定していた。
 さらに、市教委の方針で、各校が年度当初に年間購入予定教材とその必要性、集金計画を保護者に明示することになった。説明責任、保護者負担の軽減、事務負担の軽減が図れる合理的な会計体制を築くことが大きな課題となった。

② 解決策
 1段階 集金担当の事務職員が副校長と連携して他校の状況を参考にし、教材費会計の様式データを整備した。そして、職員会議で周知し、様式を統一した。支払時期も4期に分けて統一し、円滑な支払いと関係諸帳簿の整備を促進した。データの不備や手書きからデータ化への移行に慣れないといった会計担当者の意見があったが、適宜データやマニュアルを修正し、移行には猶予期間を設けて対応した。
 2段階 事務職員が、管理職・教務主任・会計担当者と意見交換を重ね、転出入時の精算用データを作成した。それを基に、職員会議で精算と決算方法を検討し、校内で統一した。その後、データ入力等の負担が増えたといった会計担当者の意見が多かったが、次年度の購入計画の資料にもなる利点を説明した。また、少しでも負担軽減が図れるよう、学期ごとに行っていた2回の決算報告を、年度末の1回に変更した。
 3段階 事務職員・補助教材担当教員を中心に、管理職を含めた補助教材選定会議を開いた。前年度の購入教材データを参考に、適正な教材と集金額を検討し、併せて保護者用通知の雛型も検討した。通知の作成期限や配付時期等、全体的なスケジュールを決め、会計担当者が取り組んだ結果、保護者への説明責任は果たせた。

③ その後
 様式等については、教職員の理解を得られ円滑に移行し、校内で統一されている。しかし、会計担当者の事務負担や保護者負担の軽減等については、今後さらなる改善が必要であると感じている。
 また、市内全校に導入された新集金システムへの移行や、市教委と事務職員が共同で検討中の会計マニュアルと本校の会計マニュアルとの整合性といった新たな課題も生じている。新システム導入後も、円滑な会計処理を行えるように、教職員が共通理解を図り、協働して臨んでいく体制が重要になってくる。今後も学校内外からの要望等を拾い
上げ、迅速な情報収集に努めていきたい。

4 組織力を高めるための学校事務

 2つの事例から、事務職員が教職員と協働し、取り組んだことで、組織力を高めるためにどのように関わったかを考察してみる。
 1つ目は、事務職員が校内の情報管理に疑問を持ち、教職員と連携して課題の改善に取り組んだ事例である。
この事務職員は、まず校内の現状把握をし、データ管理のルールがあいまいになっていることに気づく。この学校は共有フォルダがうまく機能しておらず、データ共有が十分でなかった。そのため「誰もがデータの場所を一目でわかるようにすること」を目標に設定し、共有フォルダへのデータ保存の徹底から取り組んだ。この時、自分だけの課題とせずに管理職や情報主任と相談し、現状の課題共有を図り、全職員で改善していく、という流れを確認した。職員会議で情報主任から他の教職員への周知徹底をしてもらうなど、事務職員1人では難しかったことを円滑に進めることができた。短期間で改善できるものではなかったため、複数年計画を立て取り組んだ。結果として、教職員への負担が少なくて済み、全員が使いやすい共有フォルダができあがった。データ保存場所として活用するだけでなく実情に合った分類にし、データのバックアップ体制強化まで図ることができた。
 改善を進めていく中で、新たな課題を発見し、当初考えていた以上の改善ができた。それは事務職員が日々の仕事に対して、問題意識を持ち取り組んでいたからこそ、アンテナを高くすることができ、教職員間の小さな話題からでも課題を見落とさない力をつけていたためである。結果として、全職員で協働していく機会が増え、組織力の向上へとつながった。
 2つ目は、事務職員が職員室での会話の中から、教材費の会計事務について問題点があることに気づき、それを改善するために、積極的に管理職を含めた教職員と連携して取り組んだ事例である。
 この学校は、1つ目の事例とは異なり規模が大きく、学年単位で動くことが多い。教材費の会計処理に関して学年ごとに違いがあり、担当学年が替わると会計処理の仕方も替わってしまうという問題があった。この事務職員はその点を学校全体の課題ととらえ、管理職、会計担当者らと協働し、改善に取り組んだ。また、保護者への通知配付などがあり、多くの時間が取れなかったことから、短期間での改善を図るため、教材に関する他の問題点はないか情報収集や現状把握に努めた。
 各学年からの情報収集により、この事務職員は1人で改善するのではなく、学校全体での取組が有効であると判断した。事務職員の作成したデータに、実際に使用する会計担当者の意見を反映させるなど、多様な視点で見ることにより、ー人では気づけなかったことにも気づくことができた。このように、仕事を共有することで、組織力の向上へとつながった事例である。
 この2つの事例に特徴的なのは、事務職員ー人ではなく、他の教職員と一緒に組織的に取り組むことで、課題の改善へ導くために組織マネジメントの手法を自然に取り入れていたことである。どちらの事例からも、教職員がお互いの仕事の垣根を越えて同じ課題に当たることで、複数の視点から見ることができ、様々な気づきが得られることが分かる。さらに、組織として改善する方法が定着することによって、教職員が異動するとやり方が替わってしまうようなことにはならない。
 これらは、1人で仕事を進めていたのでは決して到達できなかったのではないだろうか。
課題を共有することで、教職員間の仕事の壁や意識の違いを越え、連携、協働するということにつながり、学校全体の組織力が向上していくと考えられる。
 様々な職種が存在する学校現場での課題解決には組織マネジメントが有効であると考え、現在積極的に取り入れられている手法のーつである、PDCAサイクルでさらに事例研究を進めていくことにした。

 PDCAサイクルとは上記のように、計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Act)という4つのプロセスを順に実施していき、1周したら最後のAを次のサイクルにつなげ、1周ごとに向上させ継続的に業務改善する組織マネジメントの手法の1つである。
 今回掲載した2つの事例も、PDCAサイクルの流れをくんで、課題の改善へと向かっている。そこで、分かりやすく検証していくために、独自に次のようなサイクル表を作成し、事例を時系列で当てはめていくことにした。
 検証していった結果、2つの事例とも最後のA(Act/改善)から次の新たなP(Plan/計画)へと、しつかり段階を踏んでいた。さらに、PDCAサイクルをうまく回し続けるために最も重要となるP(計画)を、どのようにして設定していたのかを検証していく中で、P・D・C・Aのどこにも当てはまらない行動があることに気づいた。どちらもP(計画)の設定をする前に、普段からの情報収集や管理職・担当者との打合せをすることによって、段階ごとにしっかりと目標を定めるなどの手順を踏んでいる。このAから决の新たなPへの手順を、従来のPDCAサイクルに当てはめることができなかったが、民間企業などで使われているRGPDCAサイクルを知り、それを参考に今までのPDCAサイクルに、R(Research/現状把握)とG(Goal Image/目標設定)という2項目を加えた形のサイクル表で改めて検証してみた。

RGPDCAサイクル
R 課題・現状を把握する
G 目標を明確にする
P 目標を達成するための計画を立てる
D 計画に基づいて実行する
C 実行した結果を評価・反省する
A 評価・反省を受け、改善点や方向性を明確にする

R(現状把握)とG(目標設定)を設定したことで、教職員と課題の共有を図ることが容易にできるようになり、課題の改善に向けた具体的な計画を立てられるため、より質の高いD(実行)へとつなげられることも分かった。R(現状把握)とG(目標設定)は意識しなくても、PDCAを回す前に誰もが当たり前のように行っている手順のように感じるが、この2つを明確化することによって、「よりはじめの一歩を間違えずに踏み出せる」ことと、「次のステップへ進むための節目を明確にする」ことが容易になると考える。

今回の事例をRGPDCAサイクルに当てはめたものが次の表である。

5 まとめと課題

 今回、新たにRGPDCAというサイクルを用いたが、聞き慣れないこのRとGの2つは、誰もが日々の仕事の中で考えていることである。R(現状把握)は課題を見つける上で重要であり、また、G(目標設定)は、計画を立てるために必要なものだからである。そして、RとGは評価するための指標となる。この提案では、RGを最初に設定することで、サイクルをよりわかりやすく、明確にすることができ、全職員での課題共有につながることを示した。
 今回の事例をとおして、学校の組織力を高めるためには、全職員で課題の共有化を図り、改善に向けて協働することが重要であると再認識した。様々な職種が存在する学校において、個々の資質・能力を最大限に活かせるのもこのRGPDCAサイクルではないかと考える。教職員と連携、協働しながらこのサイクルを繰り返していくことにより、共通理解や一人一人の力の結集にもつながり、事務職員だけでは困難なことも改善できるようになる。さらに、サイクルを回すことで業務の効率化や教員の事務負担軽減が図られ、子供と向き合う時間の確保につながる。
 事務職員も組織の一員として、積極的に学校運営に関わっていかなければならない。子供たちにより良い環境での学びを提供するために、学校行事の反省や学校評価に積極的に関わり、そこから見えてくる課題に事務職員がどのように取り組むか、組織として改善するために何をすべきか考えていく必要がある。単に事務処理だけを行っていくのではなく、日々の仕事に対して問題意識を持ち、学校の課題に気づく視点が大切である。課題発見の視点を養うには、教職員や子供たち、保護者など様々な人たちの声を拾うことが重要になってくる。そのためには、日ごろから積極的にコミュニケーションを図ることが大切であり、一人一人のコミュニケーション能力の向上が課題である。
 さらに、近年は学校を取り巻く社会的環境が変化し、地域にも目を向けた学校運営が求められるようになってきている。学校を運営していく上で、学校関係者や学校支援ボランティア等、学校と地域との連携が必要不可欠である。これからは事務職員も、学校と地域とを結ぶコーディネーターとしての役割を担っていく必要がある。

6 おわりに

 私が、このRGPDCAというサイクルを初めて耳にしたのは、前職の民間企業で営業職として勤めていたときである。営業であるからには数字が目標であり、達成に向けたサイクルも数字を取るためのものなので、単純明快であった。市場動向をリサーチし、自分の担当エリアがどうあるべきかイメージして、サイクルを回していく。
 転職し学校事務職員となった今、サイクルを回すこと、特にRとGを考えることに事務職員は向いているのでは、と思っている。学校の全職員と密に関わり、外部ともつながりを持つ。時に広い視野で全体を見ながら、時に近くから細部を見ていくこともできる。そんな事務職員ならリサーチの仕方や、目標設定も様々な角度からできるのではないか。
私が小学校に赴任し初めて聞いて、「いい言葉だなぁ。」と思った言葉がある。それは、「共通理解を図る」という言葉である。様々な職種がそれぞれの想いを持ちながら、最終的には「子供たちのために」という明確な目標を持った集団だからこそ、「共通理解を図る」という言葉が生まれたのかもしれない。
 それぞれが自分の職務に当たる。その上で、学校全体で共通理解を図り、組織として動いていくためのきっかけが、サイクルを回すことだと考えている。RとGから始めること、それは教職員とのコミュニケーションを取り、想いを確認し合うこと。いつも、私たちが普段から職員室で行っていることである。何をすべきか迷ったときは、いつでも気軽にRに戻って考える。そんなサイクルがあってもいいと思う。

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